語り部通信

周作クラブ会報 「からだ」番記者レポートE

人を傷つける「善意」もある。

 

1982(昭和57)年の春、遠藤周作さんが讀賣新聞に寄稿した『患者からのささやかな願い』には大きな反響があり、「心あたたかな病院」キャンペーンに賛同する患者や医師、看護師から約二百通の手紙が届いた。
 早速、『わたしの健康』七月号で、遠藤さんの親しい友人でユング派心理学の第一人者・河合隼雄さん、数名の医師を交えた座談会を開催した。

遠藤さんは、ふだんは医師に言いづらい患者心理の説明を、【お医者さまから、こんな手紙がありましたよ。「遠藤さん、名医とは何でしょう。病気はよう治せないがやさしい医者か、それともやさしくないが病気を治す医者か……」 ぼくだったら、やさしくなくても病気を治す医者の方に行きますよ。そして、「やさしくない!」と文句言います(笑)。それが患者というものですよ】と、ユーモラスに紹介する。
 また、「二百通の手紙の中にも、チャンスがあれば、ボランティアをやりたい人がかなりの数ありましたが……」という遠藤さんの質問に、臨床心理学の専門家である河合さんが、【ほんとうのボランティアというのは、非常にむつかしい。(中略)ボランティアというのは、善意によって人を傷つけるという、まさに天才的なことをやることがあるんです。これがいちばんこわいですね。傷つけられたほうはわかるけど、傷つけたほうは喜んでいるわけですからね。こんな割の合わんことありませんよ】と釘をさしたのである。
 その鋭い指摘に驚いて、【そうなんですか。それを私は考えとったんだけど、ボランティアはむつかしいんですか】と、遠藤さんは一瞬、たじろぐ。
 すると河合さんは、【たとえば私が遠藤さんの髪を散髪してあげましょうかと言ったら、断るでしょう。当然ですわな、私は髪の刈り方よう知らん人間ですから…… 髪をさわるだけでも相当な訓練がいるのに、なぜ心をさわる人だけが訓練を受けなくていいのか、ということを私は申し上げたいんです】と、たとえ話で解説を加えた。

そのやりとりは、遠藤ボランティアグループが、一人五千円の年会費を「傾聴」を学ぶための講師謝礼にあて、勉強しつつ活動にいそしむ、遠藤ボランティア独自の出発点となったのである。